本作を2月の休日、肌も凍る寒い午後にT-Joy東広島にて鑑賞してきました。
「花束みたいな恋をした」「怪物」の坂元裕二さん脚本のSF恋愛ものです。坂本さんはセリフの内容も素敵ですが、ひとの微妙な間を表現するのがうまい脚本家であり、今回の新作も楽しみにしていました。
15年前に運命的な出会いで、劇的に結婚したものの、その後子どもに恵まれることもなく、お互いの生き方を尊重するあまり、ぶつかりあったり、すれ違いの時間が多くなり、離婚も考えるほど冷え切った関係に至っていたふたり。
そんなふたりにある日夫の事故死が訪れます。夫を失ったことにより、やっと大事なものに気づいた妻の想いが天に届いたのか、なんとふたりが出会う前の15年前にタイムスリップをして再度出会いなおしふたりの関係を良いものにすべく再構築していく物語です。
過去の教訓もあり、ふたりの仲違いやすれ違いはもう起こらず、よい関係を築いていきます。 そしてあっという間に15年の月日がたち再び運命の日が訪れます。 夫はその運命を知りながらそれに逆らうことなく淡々と死を受け入れていきますが、以前と異なるのはふたりにとって運命への準備ができており、夫は密かに素敵なプレゼントと隠し手紙を用意していました。 この手紙が想像上の声により朗読されるラストはその内容とともに自然に泣けてきます。
こんな切なくも夢もある物語が光の陰影を強調した淡さと儚さがゆらゆらと漂う映像とこころのあやを刻み取るかのような印象的な対話によって構成されています。 例によって坂元脚本らしくセリフが印象的です。例えば「恋愛感情と靴下の片方がいつかなくなります」とか「結婚したらいやなところが4Kみたいにくっきりとしてくる・・」といった毒もありながら真実を切り取るような名セリフが目白押しです。
それでも同じ坂元裕二さん脚本作品なら、わたしにとっては「花束みたいな恋をした」の方が個人的体験にシンクロしており、感情移入が強い分さらに素晴らしかったかなとは思いました。 しかし主演の松たかこさんと松村北斗くんがスクリーンに映えて物語に似合い過ぎていたことが本作の価値を押し上げているような気がしました。
最後にタイムスリップによってふたりの別れという結末は変更することができなかったけれど、そこに至る過程を劇的に良いものに変えることができたふたりがそこにいることによって、こころのなかに一筋の涼風が吹き抜けていくような作品でした。