ある男

本作を暮が押し迫った12月のとある夜にT-Joy東広島にて鑑賞してきました。 結婚していた男が実は素性の不明なまったく別の男だった・・というなかなか思わせぶりな予告編を観てから気になる作品であり、なんとかタイミングが合って観ることが叶った作品です。

 

わたしは幸運にも平野啓一郎さん原作の小説のことを読んでないどころかまったく知らずの人間なので、子どもまで作り家庭を営みながら、妻に素性や正体を隠して生きていくしかなかった男の過去やその動機が映画の進行のなかでどう解き明かされていくのだろうという興味で本作に臨み、ほぼ最後までその気持ちのまま鑑賞し終えました。

 

映画が進むにつれて、なるほどそう来たか~という謎解きの気持ちよさが徐々に深まっていきます。それと同時に謎の「ある男」の素性と謎解きの狂言回しの役割となるはずの普通の弁護士(妻夫木聡さんが好演しています)の内面が複雑にシンクロしていき、「ある男」とは実はひとりではなくふたりであり、また観ている自分だってほんの少しのきっかけで本作のように「ある男」になっていた可能性だってあるという暗い示唆が映画全体に漂っており、さすが平野啓一郎原作というべきか、シュールでシニカルな面の強いかなり文学的な佳作でした。

 

本作の感触はわたしの大好きで尊敬しすぎてもし足りない、イギリスのケン・ローチ監督が制作しそうな味わいや影のある作品であり、いつまでもこころの隅に引っ掛かりを残す素敵な佳作でした。