本作を冬のささやき声が聴こえてくる寒い12月の夜にT-Joy東広島にて鑑賞してきました。
実を言うと、わたしの映画鑑賞は作品を最初から決めて強い意志を持って観るということは半分ぐらいで、普段の映画鑑賞については仕事が一段落して映画館に駆け付けるとちょうどいいタイミングで映画上映が始まるという作品をとりあえず好き嫌い言わず観てみるという具合であり、本作はまさしくそうした流れで経験できた作品となりました。
そんななかに意外な掘出し物や傑作との巡り合いがあるということもしばしばあり、これが映画館での鑑賞の素晴らしさなのですが、本作はそうした当たり作品でした。
物語は不思議な設定で、SF的でありながらも現代を描いており、複雑に入り組んだ世界がスタイリッシュな映像とともに展開されていきます。世界が終わってしまえばいいといつも考えているふたり。不潔恐怖症の男性と視線恐怖症の女性。精神疾患であるPhobiaを有するふたりが仕組まれたように出会い、その危うさと純粋性に惹かれ恋に落ちていくと思いきや、その恋自体が実は頭に巣食う寄生虫の仕業であり、どこまでが彼ら自身の意思でどこまでが寄生虫の仕業かの境界線もない世界が広がり、物語は容赦なく転がり転がっていきます。
その過程で必死に恋しながら世界の破滅へ向かっていくふたり、ざらざらしたスタイリッシュな揺れる映像、場面に寄り添う存在感溢れる付随音楽、ふたりの口からこぼれるまるで詩集や哲学書から飛び出してきたような意味深で哲学的な言葉・・・。これらが複合的にまじりあい、観るものを圧倒します。これぞ映画の醍醐味であり、本作は映画的傑作であること間違いなしです。
わたしも本作に久々すっかりノックアウトされ、頭がぐるぐると気持ちよくかき回されました。
こうした作品が東広島のような地方の映画館で普通に上映される時代に感謝しつつ、寒い冬が忍び寄る夜の帳に滑り込み、よい映画を観た後に訪れる夢心地の世界にいざなわれ浅く短い眠りについた夜でした。
P.S. 本作を観て思い出した漫画があります。それは90年代の傑作「寄生獣」です。本作とはテーマが違いますが、人間のなかに入り人間の行動と思考を操りながら、人類との共生を図る寄生虫ならぬ寄生獣の物語です。映画化もされた作品でもありますが、寄生?作品としては甲乙つけがたしの傑作です。もし機会があれば是非とも味わってみてください。