本作を深まる秋の夜更けに、T-Joy東広島にて体験してきました。ここ最近「新聞記者」「ヤクザと家族」といった話題作、問題作を連発する映画会社スターサンズの新作であり、期待は否が応でも高まっての鑑賞となりました。
ひとりのおとなしく自己表現の苦手な内向的な少女のスーパーでのマニキュアの万引き。犯行を見つけた店長。思わず逃げた彼女。執念深く追いかけたその結果彼女の交通事故死。それまで娘に対する理解のなかった父親の憤慨。そこからさまざまな関係者への攻撃。崩れていく人々の運命。その過程で見えてくる真実。それを認識した父親の行動変容。何もかも失った果ての感動の和解。
上記の言葉を読んでなんのこっちゃいな・・という感想を持たれると思うのですが、上記の文章展開を映画という媒体にて、映像と音楽をつけて表現するとなんと饒舌な物語に変容するのだろうという感慨を受け、映画という表現手段の可能性の奥深さを思い知らされます。
特に古田新太さんの狂気に満ちた父親役は刮目するほど素晴らしく、現実にはあり得ないほど理不尽な存在なのに、実際こんな人いそう・・と思わざるを得ない説得力のある演技です。古田さんのこの迫真の演技を味わうだけでも映画館に足を運んだ甲斐ありの作品でした。
いろいろ語りましたが、本筋のテーマにとどまらず、狂気の父親や気弱な店長(松坂桃李くんが右往左往しながらいい味出てます)を取り巻く人々ら(若い店長のことを心配しひそかに愛している寺島しのぶさん演ずる中年女性店員さんも存在感抜群です)にも独特の陰影と深みが感じられてさすがの作品になっています。さまざまな人間のサガや闇を照らし出す作品を作り続けるスターサンズの今後の作品に期待です。