すばらしき世界

本作を春の訪れを感じる月曜の夜に、T-Joy東広島にて鑑賞してきました。広島出身の西川美和監督の作品です。常にハズレなしの作品群であり、今回も大いに期待しての鑑賞となりました。

 

偶然にも前ブログでもヤクザ映画へのコメントでしたが、今回もヤクザという生き方になってしまったひとりの男が、旭川刑務所で刑期を終えるところから映画は始まります。これから二度と服役などしなくても済む人生を歩むことを心に誓った三上という男の生きざまが彼の人生の終幕まで素晴らしいタッチで描かれています。

 

前回の「ヤクザと家族」でもそうだったのですが、犯してしまった過ちを背負いながら、人生をやり直していけるかというメインテーマに、観る人それぞれ歩んできた人生によって、さまざまな見方が生まれる多角的な作品になっていました。いつもの西川監督の作品どおりです。

 

しかし、今回は西川監督の創作ではなく、実話を基にした作品というところが重いです。本作の主人公の三上は実際に存在して、懸命に生きて死んでいきます。三上の目を通しても、世界にはさまざまな価値観を持つ人であふれており、よき人もいれば悪しき人もいます。その人々が罪を犯した人物の社会復帰というフィルターを通して彼と出会い、そして別れていく。

 

わたしも日々、さまざまな人生や想いと触れ合う仕事をしていますが、人々を取り囲む世界や束の間の時に棲む人生というのはいったいどのように構成されているのだろう・・?とあらためて考えさせられる作品となっていました。

 

三上が死ぬ最後の日に、彼が懸命に選びとった行動にはそれまでの彼らしくないところがありながら、さまざまな人からの薫陶を経て、あえてとった行動であり、新たな可能性を感じさせるものでした。その結果には是非もないのですが、言いようのない複雑で深い想念が生まれたことだけは確かであり、これだから西川監督の作品は必見だなと確認した夜となりました。

 

P.S. 西川監督の最初期の作品「ゆれる」は邦画史上5本の指に入る傑作であり、まだ未見の方はビデオでいいので、一度鑑賞されることをお勧めします。