本作を秋の気配が漂ってきた9月の夜にT-Joy東広島にて修行してきました。最近、ひとつのジャンルを形成しつつある高校部活映画です。
原作はなんと累計2500万部も売れている大ヒット漫画とのこと。わたしも昔は漫画好きとして人語に落ちないほどさまざまな漫画を読んでいた時代もあるのですが、すっかり衰えました。恥ずかしながら、まったくその大ヒット原作の存在さえ知らない状態での修行となりました。
アニメグッズ購入のため自転車で秋葉原に通いつづけた結果、知らぬ間に自転車をこぐための類まれな脚力を身に着けた坂道少年がひょんなことから自転車競走部の世界を知り、その世界に入り、仲間と切磋琢磨することを通して、「One For All」「All For One」というスピリットを身体にしみ込ませながら、素晴らしい仲間やライバル、先輩を得て、人格成長を遂げていくというストーリーです。
上記のように書いてしまうと、「えっ、それだけの話なの?」と言われそうですが、これが実際の映像や時間というフィルターを通して表現されると、雄弁で深みのある物語となり、なにか人生で大切なものを思い出させてくれるような体験となるのが映画の魔法です。
わたしもこの魔法にすっかりやられ、十代のころを思い出し、すっかり元気になりました。
本作の秋葉原自転車通いのエピソードですが、実はわたしにも似たような体験があり、余計に共感させるものとなりました。小学高学年から中学前半のころ、わたしも同じように珍しい漫画(主に手塚治虫先生や石森章太郎先生の作品でした)を求めて、片道10キロから20キロは離れた街の本屋まで自転車で遠征していました。その目的地は名古屋の中心街や一宮、四日市といった街たちでした。わたしの住んでいた街からそれらの街へは往復にすると、20キロから40キロほどはありました。
そんなもの注文すればいいじゃない?と思われる方もいるかもしれませんが、当時は今と違い、残念ながら漫画はまだ下種で虐げられた存在で、本屋で漫画を注文すること自体が難しく相手にされない空気感があり、漫画好きの少年にとっては、実際の本屋で現物を見つけ、それを買うしかなかったのです。たぶん今のアニメやアイドルグッズなどもそういった世界なのではないでしょうか?加えて、電車を使えば、電車賃として往復500円~1000円ほどはかかるわけで、そんなお金があれば、好きな漫画本を2~3冊は余分に買いたいという気持ちが勝っていました。
時には途中突然の雨に降られたり、自転車自体にトラブルが発生したりして、このまま夜中まで家にたどり着けるのだろうかと不安に陥ることなどももちろんありましたが、それでも自転車で知らない土地をさまよう行程は大変というよりは未知の世界を自から切り開いていくようなとてもわくわくする楽しい体験でした。普段は電車に乗らない限り絶対にたどり着けないような街まで自分の力で行くということの達成感や恍惚感とともに、素敵でレアな漫画本を手に入れるという実利もあるのですから。
当時は少年キングに連載されていた「サイクル野郎」という日本一周を自転車でするという漫画もあり、わたしもこの体験を生かして、将来サイクル野郎のような漫画を描いてやろうなんて大それたことさえ考えたりしていました。
いま思えば、お笑い種ですが、そんな古き良き思い出を本作は掘削してくれて、満たされた気持ちで、わたしが帰路に着いたのは言うまでもありません。自転車万歳です。