蜜蜂と遠雷

12月初旬の寒い夜に本作を修行してきました。最近ときどき見られるギフト(才能)ものです。

 

テーマは音楽。そしてピアノ。わたしも個人的にはモーツァルトやショパン、ドビュッシー、サティ、エヴァンスらのピアノ作品を日頃から仕事の合間に愛聴しており、とても楽しみな作品でした。

 

それぞれ背景や境遇、天才の要素が異なる4人がひとつのピアノコンクールという舞台を通して、そこで迎合し、なにかをスパークさせ、その才能をさらなる高みへと昇華させていく過程が実際の音と映像を通して適格に、かつ気持ちよく表現されており、こんな映画を日本は作れるようになったのだ・・と感嘆しながら見終えました。

 

実際に本作のために作曲された「春と修羅」と4人のそれぞれのキャラクターの違いにしっかり寄り添い作曲され演奏された4種類の異なるカデンツァももちろん素晴らしいのですが、何といっても主人公と少年が夜誰も知らないピアノ修理工場で奏でる連弾・ドビュッシーの「月光」のシーンにうっとりさせられました。

 

もうこれらを音と映像で表現していただいただけで大満足の本作なのですが、主人公の母親の死に伴う葛藤を交えながらこのコンクールの結末までを淀みなく素晴らしい音楽と映像を交えて表現されており、ひとつの映画作品として原作を知らなくても十分に完結しているという点が素晴らしく、劇場ではわたしを含め10人ぐらいの観客だったのですが、もっとたくさんの人の目に触れるべき作品だという想いを持ち、映画館を後にしました。

 

P.S.本作は音楽表現を映像にした傑作ですが、音楽表現をテーマにした個人的に思い入れの深い傑作音楽漫画があります。それは「のだめカンタービレ」と言いたいところですが、「変奏曲」(竹宮恵子作)です。これは同じ時系列的出来事をそれぞれの登場人物の視点から、まさに変奏曲のように同じ楽想からさまざまな楽曲という物語が並行しており、微妙な平衡感覚を維持しながら、「革命と運命という十字架を背負いながら人生という列車のなかを流れ消えていく音楽と情熱」を素晴らしく深く表現している金字塔だと思います。これが今から40年近く前にすでに表現されていることに脅威と感嘆を覚えます。10代後半で本作と偶然出会ったわたし(連載時のリアルタイムではなくすでに全巻が単行本化されており、いわば追体験でした)は読んで即座に本作に完全にノックアウトされ、その後何十回も繰り返し読みながら、・・芸術や表現で魂を磨いていくという世界があるのだ・・ということを知り、その世界にあこがれ、現在のような仕事に繋がっていくきっかけを作ってくれたといえるような、感謝すべき作品です。でも残念ながらあまり知られていません。もし音楽の映像もしくは漫画的表現、魂の探求、旅としての人生に興味を持つ方がいましたら、チェックされることをお勧めします。