グリーンブック

本作を3月の桜の気配がそろそろしてきた春の夜に鑑賞してきました。本年のアカデミー賞作品賞受賞作ですので、なんやかんや言いながら見逃すことはできない必見作といえます。

 

実在した天才ピアニスト、ドン・シャーリー。数奇な運命から黒人でありながら、幼少期に音楽的才能を見出され当時ソビエト連邦にあったレニングラード音楽院でクラシック音楽の英才教育を施され、そこで天才的な才能をさらに進化させ、ホワイトハウスでも演奏するという栄誉に恵まれながらも、黒人ゆえにクラシック音楽への道を閉ざされ、かと言ってポピュラー音楽やジャズへも進めず、独自の孤高の音楽を築いた彼と、彼のアメリカ南部(アメリカ音楽のルーツでありながら、黒人差別のもっともはげしいエリア)へのツアーの運転手兼用心棒兼付き人を務めたはぐれものイタリア系白人トニーの友情物語であり、最近はやりのバディ映画ともいえます。

 

なんと言っても見どころは彼の演奏シーンではないでしょうか。屈辱や誇り、意地が入り混じるその演奏シーンは美しく観るものをうっとりさせます。そしてその奏でられる音楽自体も素晴らしいのです。

 

実際のピアノ演奏は、シャーリーとよく似た境遇でありジュリアード音楽院はじまって以来の天才と呼ばれた黒人ピアニスト、クリス・パワーズが演奏しているのですが、美しく個性的な音楽が劇中に鳴りまくっているわけで、音楽映画好きのわたしとしてはもうこれだけで最高の気分でした。

 

しかしこの映画の醍醐味はやはりラストのクリスマスの夜の出来事でしょう。切ないながらもあたたかいこのラストシーンは心にぐっと来るものがあります。このラストシーンで心があたたまらない人はいないだろうという映画史に残る名シーンだったと思います。

 

このラストシーンが気に入った方には、同じくクリスマスを題材にした名作「スモーク」をおすすめします。この作品もラストにはきゅんとなるほど切なくあたたかくなること請け合いで、本作のラストを観終えた後に真っ先に20年以上も前に観た「スモーク」を思い出していました。もし興味のある方はぜひ一度観られてください。

 

P.S. 本作は上に書きましたように心温まる素敵な作品でしたが、それでもオスカーの最高賞である作品賞を獲るとは??という感慨がどうしても残っています。あえて今年についていうなら、やはり最高の映画作品は「ボヘミアン・ラプソディ」ではなかったでしょうか?音楽的にも物語としても高いレベルで楽しめ、観終わった後のこころには本年度一番といえる衝撃と余韻が残り、文句なく最高作品に値するような気がしました。その点で「ボヘミアン」を作品賞に選んだゴールデン・グローブ(去年は「ラ・ラ・ランド」を選びました)の見識に今年も同意です。アカデミーは近年の傾向どおり、政治&社会的作品へのリスペクトが今年も強かったかな~と感じたのはわたしだけでしょうか?

もっともアカデミーはアカデミーであるわけで、単なるアメリカ映画界の一作品賞であるにすぎず、わたし自身がアカデミー作品賞というものに「今年の映画界の最高作品」という権威的幻想を持ちすぎているだけかもしれません。反省です(^_^;)