止められるか、俺たちを

待望の本作を「華氏119」とはしごでサロンシネマにて鑑賞してきました。

 

本作はまだ若かった故・若松孝二監督を取り巻いた若者たちのなかで、助監督にまでなり原因不明の死を遂げた女性を主人公に描いた、ほぼ実録に近い物語です。音楽が曾我部恵一というのがまたふるっています。

 

若松孝二監督は大好きな監督であり、傑作「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」は今もわたしの映画体験に輝く金字塔を打ち立てています。ラストは膝ががくがく震え、胸が締め付けられました。ピアノの単音を中心として大音響とともに、破れ行く若い彼らの心の叫びが響きわたるなか、あさま山荘という幻想城が崩れていくシーンは、驚愕と畏怖を伴い、今も思い出すと胸が熱くなります。

 

若松監督という無鉄砲で強引で火の玉のような映画的才能の塊という存在を中心に多様な才能が集まりまた散っていくさまが青春の光と影といいたくなるような素敵なエピソードを中心に、彼の晩年の弟子・白石和彌監督により綴られていきます。登場人物たちのほぼ全員が実在の人物であり、彼らがその後何ものになったかを調べるだけでわくわくするような作品です。

 

しかし何といっても素晴らしいのは、本作のスクリーンに映し出される映像自体の色合いや登場人物の醸し出す空気感が、亡き若松監督の撮った映像そのものであるかのような錯覚を思い起こさせるほど、監督へのオマージュとして成り立っている点ではないでしょうか?

 

ベタベタしながらカラッとしている、コダックカラーの青年たちのシャツやセピア色で罪のない昭和の空が素敵な映像でした。こういう作品が普通に街のシネコンでも見れるようになればいいのにな~といういつもないものねだりの気持ちが湧いてきながら、足早に広島市内からわが街東広島への帰路に着きました。