万引き家族

本作を梅雨に入ったのに梅雨らしくないさわやかな初夏の夜にT-JOY東広島にて修行してきました。なんと5月に開かれたカンヌ映画祭において最高賞であるパルムドールを邦画としては21年振りに受賞するという快挙を達成しての封切であり、わたしもさっそく馳せ参じました。おかげで巨大スクリーンの1番シアターでこの不思議な家族の物語を堪能させてもらいました。

 

是枝裕和監督はここ数年、スクリーンを通してさまざまな家族の群像を描いて、「現代において家族とはいったいなんなのだろう?」というテーマを観るものに提起していますが、本作はその集大成のような出来になっていました。

 

いい映画というのは物語の流れをあまり言葉で説明しすぎず、登場人物のなにげない表情や映像そのもので表現するものですが、本作はまさにその真骨頂になっていました。

そうはいっても、ラストにかけて、なんと同じ屋根に住む家族がすべてアカの他人だったのには驚かされました。おばあちゃんと娘のなにか分かり合っている姿をみて、さすがに彼女らには軽い血縁関係ぐらいあるのだろうなという目で見ていたわたしもこの展開にはあぜんとしました。祥汰ぐらいはさすがに彼らの息子かと思っていたら、なんとラスト近くでは、赤ん坊のころにさらってきたことが明かされたことにもびっくりでした。要は同じ屋根の下で暮らす家族は全員赤の他人というわけだったのです。

 

こんなふうにこれでもかというぐらい意外でやや強引で操作的な物語展開ながらも、映画館で観ていると妙にリアリティがあり、引き込まれていくという映画のマジックがそこにはありました。今まで少し頭でっかちかな?と思っていた是枝監督が考えに考えてつくり上げた素晴らしい結晶のような映画が出来上がったのだと思いました。

 

まったくの他人どおしが実の家族以上に仲睦ましくささやかに暮らす姿はほほえましく温かみさえ覚えます。しかし経済的な基盤は家主である樹木希林演ずる老女のもらう年金(これももしかして詐欺?)と子どもらをも巻き込んだ日々の万引き。

 

倫理的には最低の登場人物たちのはずなのですが、妙に愛らしく親しみやすく表現されています。安藤サクラ演ずる信代の、まるで昭和のような貧乏な生活のなかで際立つ出で立ちと沸き立つ色気が劇中ではリアリティを高めるいい隠し味として効いています。余談ですが、本作を観て安藤サクラさんの演技に興味を持った方は彼女の初期の出演作「愛のむき出し」(園子音監督)を観てみるのをおススメします。安藤さんの持つ狂気と色気がもう10年以上も前にすでにそこにあるのを見つけるはずです。

 

本作の醍醐味はなんと言っても盛りだくさんなデジャブのような家族群像ではないでしょうか? 学校にも通わず強かながらもナイーブさも併せ持つ祥太の生き様は「誰も知らない」の姉弟たちのそれであり、樹木希林演ずる初枝のこころに宿る過去に対する怨念と諦念の入り混じったようなぶっきらぼうさは「歩いても歩いても」の老夫人の熟成であり、ビルの谷間の狭く小さな家という小さな空間での家族の濃密なやりとりは「海よりもまだ深く」の狭いアパートでの濃密な一夜の延長であり、ラストに近いところの治と祥太の別れは「そして父になる」のラストシーンを思い出させたり、万引きという犯罪の不条理と理不尽さ、空虚さは前作「三度目の殺人」で描かれた犯罪にも感じたそれであり、まさに是枝監督が今まで家族に関して積み上げてきたエッセンスをこれでもかというほど注入し、まさにいい意味でるつぼであり、印象的な家族情景のごった煮となり、これらが危ういところでバランスを保ちながら、是枝監督独特な小津監督ゆずりのスタイリッシュでありながら、陰影のある静かで穏やかな映像で表現され、まるで是枝家族鍋というがごとくのいい風味になっているわけで、まさに家族シリーズの集大成の作品(これからさらにすごい家族寓話が生まれるのかもしれませんか)であり、カンヌ受賞もさもありなんです。

 

さらにエンドロールにおいては、細野晴臣によるコミカルでやや不思議な不調和と調和を行ったり来たりする音楽が本作を雄弁に語っており、やはり「いい映画にはいい音楽が必須ですな~」という感慨を抱きながら、監督はつぎはどんな家族を描くのだろう?なんて考えながら、否応なく観るものにそれぞれの家族のことを考えされられる作品でした。

梅雨らしくないさわやかな風が漂いながら、平成30年という年を代表する歴史的作品に遭遇したんだなと感じる夜になりました。

 

P.S.そんなこんなで激賞の本作でしたが、個人的な是枝監督最高作はそれでもまだ「歩いても歩いても」であることは変わりませんでした。どうにも逃れられなかった家族の運命とどうにもならない現実への怨念と諦観が微妙なバランスの上に見事に表現されています。この作品でもカンヌをとれたのでは?と思うほどです。本作のようにいろいろ盛り込まれたリッチな作品ではありませんが、簡素ながらもこころをいつまでも揺さぶる作品であることは間違いないです。まだ未経験の方はぜひにです。