君の名前で僕を呼んで

本作をGWに入ったばかりの昼間に久々広島市内まで出かけ、広島の誇る映画の殿堂、八丁座にて修行してきました。

 

いわゆる大手映画館ではなかなかやってくれない、アート系映画です。舞台は1980年代のイタリア北部の田舎町。17歳の少年エリオと24歳のアメリカ人青年オリヴァーが出会い、夏の訪れとともに恋に落ち、夏の終わりとともに夢のように去っていく。そんな夏の輝きと微妙な心の動きを初々しい主演・ティモシー・シャラメが画面いっぱいに切なく、穏やかに演じています。

 

ふたりの切ないふたりの切ない恋の情景もいいのですが、個人的には本作の魅力はふたりを包み込む自然と街並ではないかと思いました。

 

ふたりを上から見つめる様に抜けるような深く青い空、歴史を物語る土色レンガの街並、緑葉が映える深く清らかな泉、どこまでも続く麦色の田舎道、罪のない夏の風に漂うシャツ、夏の強い陽光を受けながら軽やかに流れるふたりの自転車の影・・・。

 

これらの情景は常にどんな時代でもきらめく、普遍的な絵柄であり、恥ずかしながら、もうここ最近の日常ではあまり目にすることがなくなったものたちが、「かつて君もこういう風景や時間を経験したことがあったんじゃない?」・・・と問いかけてくるようでした。そうした風景の誘惑のなか、2時間と少しだけ本作の描く情景のなかにどっぷり浸かり、束の間日常を忘れる貴重な時間を過ごさせてもらいました。

 

本作は同性愛映画というよりは、そういう愛の形にとらわれず、ふたりの魂が自然に魅かれあった、切なくて穏やかで、季節とともに消え去った恋と季節と自然の物語でした。さらにおまけとして、ラストの主人公の父親の含蓄のある言葉はちょっとやりすぎかな~と思えるほど理想的なセリフであり、こんな親が自分にいれば・・とも思ってしまうほどの出来栄えでした。

 

本作を観ていると、わたしは日本人ですが、こんな素敵な風景や時間のなかで一瞬を過ごす人生に強烈に憧れます。こういう風景や時間のなかで光と緑に包まれて蒼く切ない淡い時間を若い一時期に経験すれば、幸運な人生と言えることは間違いなさそうです。でも人それぞれ与えられた環境と時間のなかで何を感じ、何を得て何を失っていくかを懸命に味わっていくのが人生なんだろうな~・・と、そんな当たり前のことを思い出させてくれた素敵な佳作であり、個人的にはまた時々見てみたくなる小さな作品でした。