坂道のアポロン

本作を3月終わりの桜が咲きかけた月のきれいな夜に鑑賞してきました。いまや青春映画の巨匠といっても過言ではない三木孝浩監督作品です。わたしもこうした青春映画は嫌いではないので、いろいろとお世話になっており、今回も映画館来訪と上映のタイミングが合ったため修行しました。

 

三木監督作品は軽く数えるだけで「ソラニン」「僕等がいた」「陽だまりの彼女」「ホットロード」「アオハライド」「青空エール」・・などなどあり、いずれも過去に本ブログでも取り挙げてきた作品です。

 

本作の物語はともに過去に親を失い、心のどこかに欠落した部分を持った少年ふたりが偶然九州の地方都市で転校をきっかけに出会い、音楽を媒介にかたやドラム、かたやピアノでジャズセッションという心のふれあいを重ねるうちに、ひとりのかわいい女の子を真ん中に置きながら、忘れがたい時間を得て一生ものの友達になっていくという青春物語になっています。

 

たった2時間のなかで濃密にこれらが表現されているため、友情の深まりの過程や別れのきっかけなどの表現はややとうとつな印象もしたりして、いろいろと突っ込みどころ満載で好みが分かれる作品ですが、こうした内容はわたしにとっては文句なく好みに入る範疇です。恋愛の切なさと青春時代独特のコンプレックスと苦悩、儚い未来への希望が銀幕にうまく表現されていると感じたからです。

 

ところで、このふたりの設定は偶然なのか狙ったのか、両者とも親を喪っている親友という点で、ビートルズのジョンとポールと同じです。ビートルズファンならば常識の事実ですが、ジョンもポールも幼い頃に母親をそれぞれの理由で喪い、こころに大きな欠落部分を背負うことになります。彼らはその喪失感に押しつぶされることに抵抗するかのように音楽にのめりこみ、結果、ロックという音楽世界において、誰もなしえなかった、悲しみや諧謔、儚さ、希望、理想などが複雑に入り混じった、深みのある音楽世界を表現していくわけです。(これらの事実の詳細については、あまたある彼らの伝記物語の書籍群に詳しく書かれていますので興味を持たれた方はぜひどうぞ)

 

そんなふたりが長崎・佐世保の街を背景に、出会いから音楽的共鳴を通してやがて別れ、また再会するという物語を三木監督ならではの透き通りそうな青空をときおり感じさせながら、さわやかに表現していきます。

 

さらに本作は何といっても、学校祭での演奏シーンが素晴らしいです。いろいろ仲違いがありながら、音楽を通して再び共鳴した風景を切なくあたたかい映像で表現されていますが、さすがにシアターでの大画面、大音量でこれを浴びせられると、音楽好きか青春映画好きならば、これがシアターの醍醐味よね~と思わずにんまりさせてくれる出来となっていました。

 

そんなこんなで音楽映画好きにも青春映画好きにもとてもおすすめなキュートな作品となっていましたよ。