本作を秋の夜長にハシゴ鑑賞でサロンシネマにて修行してきました。 定期的に映画化される、チェ・ゲバラものです。もう9年も前に連作で製作された「チェ」は4時間半にわたる大作にもかかわらず、ゲバラの魂をぶつけた、まったく飽きさせない素晴らしい作品でしたし、彼の若いころの南米の旅を活写した「モーターサイクル・ダイアリーズ」(本作の製作総指揮はあのロバート・レッドフォードです)もまた青春映画の傑作ともいえます。ゲバラファン?のわたしにとっても楽しみな修行となりました。
実は本作はゲバラ当人が主役ではなく、ゲバラとともに闘いほぼ同じ時期に命を落とした、ボリビア出身の日系人であり、ハバナ大学医学部学生のまま祖国ボリビアでの革命運動にゲバラとともに身を捧げた、フレディ前村という青年の物語です。主演は国際映画に出てはこける?ことの多いオダギリジョーというのが一抹の不安ではありましたが、本作は素敵に魅せてくれました。オダギリさんは本作のために半年ぐらいで本場のボリビア訛りのスペイン語をマスターし、体重も10数キロ落としてこの役に向かったそうですが、その気迫と努力はしっかりスクリーンに刻まれていました。
ゲバラもそうですが、前村も医師を志し、ゲバラは実際に医師になり、前村は医学生のまま革命運動に身を投じたのですが、世界の理不尽に怒りを感じ、真実を追求する強い魂と行動力を持つという点で、有名度や英雄度は天と地ほどの差があるものの、なんとふたりは相似形なんだろうと思ってしまいました。もちろんゲバラもそう感じていたようで、人を救おうと医学を同じく志し、同じく革命に身を投じた13歳も年下の青年に、革命運動のなかでの偽名として、自らのファーストネームであるエルネストを与えます。以後、彼はその死までゲバラ部隊のなかでは「エル・メディコ」と呼ばれながら、最後は密告による待ち伏せに遭い、25歳の短い生涯を終えます。
いつも切なく美しく儚い映画を観て思うことは、自分はなんと理想とは遠い、ふぬけた時間を過ごしているんだろう・・ということです。わたしもかつて多くの青年と同じように、自由や平等、真実に憧れ、そうした世界の実現を夢想していたころがあったような気がします。しかし、いかんせん自分には実際にそうするだけの行動力が備わっていませんでした。そうこうしながら必死に容赦のない時の流れや社会の荒波を懸命に泳いでいるうちに、自らの内にある理想や真実にのみこだわっていては生き抜いていけないことを悟り、世の中の現状と仲良くとまでは行かないまでも、妥協という名の協調性を身に着けながら、今日まで生きてきた気がします。
本作のような、ゲバラや前村のような理想を持ちそれに妥協せずに行動した若者の活躍を表現する映画を観るたびに、そんな甘い自分に彼らから、少しは若いころの純粋で熱かった魂を思い出してみろよ・・とどやされているような気分にもなります。本作は青春時代の憧れでもあり、達成できなかった過去の魂の軌跡を思い出させてくれる切ない青春映画です。おそらくこれからもゲバラは自分のこころの片隅に39歳の永遠の革命青年のまま住み続け、ときには刺激や反省を与えてくれるような存在であり続けるだろうことを本作では再認識させられました。かつて熱い時間を過ごした旧友たちにはぜひ観てもらいと思う作品になりました。