追憶

本作を梅雨まっただ中の診察が終わったあとに修行してきました。

「追憶」というとかつてロバート・レッドフォード主演のアメリカ映画の名作があります。このタイトルをあえて持ってくるという不敵さは、さすが降旗康男監督・撮影木村大作の邦画の歴史的名コンビならではです。

 

おそらくかつての名作に負けない内容の作品なんだろう?という期待のなかでの鑑賞になりましたが、期待にたがわぬ傑作になっていました。過去にとらわれながらそれを忘れかけ現実にもうまく適応できず家庭崩壊まで招きつつある男と、過去を背負いながらあえてさらに重いものを背負い続けながら未來に向かって歩く男の再会とこころの葛藤が、日本海に沈む夕日を借景に見事に表現されている本作は,過去をときどき忘れながらこの広島の地で日々流されながらなんとか生きているわたしにもぐさりとささりました。

 

冷たい風が吹きすさぶ日本海と屏風のごとく立ちはだかる立山連峰。その間の狭隘な土地に懸命に生きる人々。事件のあった過去にも今もそして未来にも変わらず降りそそぐだろう、やさしく微かな陽光・・・。これらの風景が糸を織りなすように人々の時を押し流していく。そんな作品でした。

 

いやはや含蓄のある昭和の日本文学的な傑作です。個人的にはかつて高校のころに読んだ「ゼロの焦点」の肌触りを感じたりもしました。しかし結末の味わいはまったく異なります。松本清張先生もまっさおの本作の結末は観る者にとっては、悲惨な過去の向こうにきらりと輝く光明に見えるに違いありません。

 

まあ邦画や文学好きならとりあえず見ときなさいと言いたくなる本作でした。本年の邦画の傑作であることは間違いないです。見逃した方はビデオでもぜひご覧いただければと思いました。