本作を上映終了間近のT-Joy東広島にて鑑賞してきました。矢口史靖監督は過去に「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」といったコミカルながらも一本芯の通った作品群を生み出しており、本作においてもやはりそうした作風を期待しつつの修行となりました。
本作はかつてアメリカで起こった大規模停電事件をヒントに、日本でもありうる物語が展開します。
退屈な日常を営むどこにでもありそうな家族にふってわいた、突然電気ガス水道全てが停止するという非日常の世界。
スマホも紙幣も車も飛行機も一切の機械文明のシステムがダウンという状態に、さえないお父さんは郷里である鹿児島に向かう決断をします。その間にいろいろな物語が起こるのですが、それをシリアスになりすぎることなく、明るくけなげに家族の実相の変遷を伝えていきます。
彼らが西へ西へと向かうなかで、楽しくも泣けるエピソードを通して、ときに笑わされながら、こんな疑問が観る者には自然に頭に湧いてきます。
「現代において、電気をはじめとした文明の進化により我々の生活はコンビニエンスかつスピーディーになったものの、文明が未発達だった時代と比較して本当に幸せになったのか?もしや幸せという点では退化しているのではないか?」
もちろんこの疑問には答えはありません。
しかし、本作を通して、文明という名の便利さや幻の万能感に踊らされず、自分の人生を手探りでしっかり踏みしめていくしかないのだ・・・という気持ちには辿り着きます。
日常のなかで、なにげなく頭の片隅に存在するこうした疑問を、映像を通して、明るく楽しく提示してくれた矢口史靖監督のセンスの良さに感謝の気持ちを感じながらの帰路となりました。