上映前からすでに本年のゴールデングローブの作品賞などさまざまな賞を総なめにした(アカデミーの作品賞は逃しましたが・)、話題作である本作を上映3日目の月曜日の夜にT-Joy東広島にて鑑賞してきました。上映一週目だけに期待どおり最大スクリーンである1番シアターでの上映です。
以前ならこうしたアート系作品は広島市内の映画館まで修行に行かなければならない状況でしたが、地元の映画館で鑑賞できるのはありがたいことです。
さて期待と気合の入り混じった本作ですが、冒頭にいきなりクライマックスともいえるダンスシーンが登場します。これを最初に持ってくるとは、野球でいえばいきなりストレートど真ん中の勝負球を投げ込むようなもので、見るものも心してこのミュージカルと対峙せねば・・という気にさせられました。(ダンスシーンにばかり気をとられてしまいますが、この冒頭の歌詞はこの先の物語をすでに暗示していることに再修行でやっと気づきました)
そして本作の最大の魅力は、一言でいえば、監督の前作「セッション」でもそうでしたが、劇中のダンスナンバーやジャズナンバーの素晴らしさであり、これらの魅力的な音楽が、映画館という素晴らしくドルビーデジタルの効いた大きな箱のなかで、音響よく響き渡るわけですから、映画好きにも音楽好きにも、もちろんミュージカル好きにも、得も言われぬ快感となるわけです。
しかし音楽のみならず、物語自体もなかなか魅せます。物語の終盤で、セバとミアのそれぞれの夢がしっかりと実りながら、ふたりの恋は実らないという儚い現実を迎えるのは切ないですが、その現実を凌駕するような幻想(妄想?)ミュージカル劇が映画のラストに繰り広げられます。
これがまたいいのです。
なんだかもう現実も幻想もどちらでもよく、得られた結果よりも夢を追う時間を共有できたふたりに意味がある・・と言わんばかりの憎い演出に涙が出そうになりました。このシーンを観て、多くの人が自分の人生のなかで出会った思い出(最愛?)の異性のことを思い出したりするのではないでしょうか?
まるで本作は、映画の最初と最後に分厚い見せ場をつくった、サンドウィッチのような作品であり、ミュージカル映画好きにとっては、どこか懐しく、温かい気持ちにさせること間違いなしの展開で、わたしも観ていて、かつてリプリントで観た「シェルブールの雨傘」を思い出しながら、物語の終局を迎え、最期のシーンでのセバのミアの後姿を見送る静かなうなずきが観る者のこころを震わせながらのエンディングを迎えました。
それにしても、劇中の音楽がすべて監督のハーバード大学時代の友人であるハーウィッツが作曲したオリジナルというのもすごいことです。加えて、主演のセバスチャンを演じたライアン・ゴズリングは元々はピアノ初心者だったのに、3か月のピアノの集中レッスンで、劇中のピアノ演奏を代役なしで、すべてこなしたという奇跡に驚きます。いやはやすごい才能と情熱です。監督はセッションもそうでしたが、本物の表現に対するこだわりに今回も脱帽でした。
パンフレットによると、あの言い難い熱情のほとばしりを表現した「セッション」の監督でもある、デイミアン・チャゼル監督はもともと大学時代に本作の構想を思いつき、本作を先に映画にしたかったそうですが、ジャズへの想いをロックに変更させられそうになったりと、さまざまな紆余曲折を経てやっと形になったそうです。
あれこれ思いつくままに書いてしまいましたが、本作には、監督のミュージカルへの憧憬、映画への愛情が満ち溢れており、観終わったわたしも温かく、それでいて切ない複合的な心持ちで映画館をあとにしました。心にしっとりと残る映画だったと思います。
P.S.結局、本作はもう一度映画館でやっているうちに味わいたいと思い、「君の名は」以来の再度の修行に行って参りました。やはり見れば見るほど味わいのある素晴らしい作品で、二度目もその音楽や物語は色褪せずこころに迫ってきましたよ。
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シネ丸 (木曜日, 06 4月 2017 09:43)
1974年に封切りされた「ザッツ・エンターテインメント」は往年のMGMミュージカル映画の名場面を集めた作品でした。 ミュージカル大好きなシネ丸は、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの素晴らしい踊りに胸躍らせた思いでがあります。
「ラ・ラ・ランド」の主役2人の夢の中のダンスシーンは,往年の作品のオマージュがたっぷりでワクワクしながら画面にくぎ付けになってしまいました。
切ない結末、映画でしか成し得ない「もしも」のシーン、素敵な音楽!
映画って、やっぱり素晴らしいですね。
PS:アカデミー作品賞逃したのは残念だったけど、それでもいいかと思ってましたが,
作品賞を受賞した「ムーンライト」を鑑賞してみて,どう考えても「ラ・ラ・ランド」が
受賞すべきだったと思うのはシネ丸だけでしょうか?