ベストセラー

本作を秋の深まるなか、広島の至宝・サロンシネマにて修行してきました。

いまが旬であるコリン・ファースとジュード・ロウの競演作品です。実在の編集者であり、あのロスト・ジェネレーションの代表作家、フィッツジェラルドやヘミングウェイを無名から見出した編集者マックス・パーキンズと見出されたもうひとりの作家トーマス・ウルフとの関係を描いた実在の物語です。

 

わたしなどはさすがに村上春樹の影響でフィッツジェラルドの作品にはよく慣れているものの、トーマス・ウルフに関してはまったく無知であり、はてはてどんな作家と編集者の関係なんだろう?という興味を持っての鑑賞となりました。

 

文章が湯水のようにあふれ、イメージは豊かな才人だが、描き過ぎてまとまりがなくなり、どの出版社にも相手にされなかったウルフを見出した後に、思い切って不要と思われる文章を削除させ、読みやすい物語に仕立てあげていった編集者・パーキンズ。

そんなふたりの共同作業は、二作目までは素晴らしい成功を得て、父子のような信頼あふれる関係を構築するものの、その後、さまざまな中傷や世間の声から、元々繊細すぎたウルフの精神状態は徐々に不安定になり、つには最大の理解者パーキンズさえも突き離し、恋人とニューヨークを離れ放浪していくウルフ。そして最後に訪れる死という名の突然の別れ。

 

本作ではわがままだけれども、自由な発想で人を感動されていくアーティストとそれを支える堅実で明晰なスタッフの、成功という化学反応とその分裂がせつなく美しく描かれています。人生は喜びが大きければ大きいほど、その後の哀しみも大きい・・・。

 

はてこの映画を観ていて、なぜか尾崎豊を思い出してしまいました。彼はわたしの世代の音楽的英雄であります。その音楽的才能もさるものながら、彼も多くの素晴らしい陰で支えてくれるスタッフら(須藤晃、西本明・・・)に恵まれて、若くして華々しい成功をおさめるものの、ささいなつまづきや思い込みから、やがて支えてくれた大切な人たちを失い、唐突な若い死を迎えたという点では多くの共通点があるように思いました。

 

おそらくどこでもいつの時代でもこの地球上では、そんな出会いと化学反応と別れはつねに起こっては消えており、いまこの瞬間にもそんな人と人との関係から生まれるマジックはどこかでスパークしているのだろうな~なんて思ってしまいました。

そしていつか名編集者・パーキンズが惚れ込んだトーマス・ウルフの作品を読んでみたいと思わされる作品でした。