本作を遅まきながら、T-Joy東広島にて修行してきました。実は本作は、わたしの映画歴のなかでも見逃してはいけないと肝に銘じていた作品です。
というのも本作の監督はウェイン・ワンなのです。誰それ??という方も多いと思いますが、1990年代中盤にニューヨークを舞台にした傑作「スモーク」を撮った監督なのです。「スモーク」はわたしがささやかな映画ファンになるきっかけになった作品群の間違いなくひとつを形成する作品なのです。年の瀬、クリスマスを祝うムードのニューヨークの街角に訪れた小さな奇跡をささやかに描いた「スモーク」はいまでもわたしの心につきささり、クリスマスはもちろん年から年中、少し気持ちが世知辛くなったときに思い出すだけで、心をいやしてくれる素敵な作品です。
そんな傑作「スモーク」を撮ったウェイン・ワンが日本を舞台に日本俳優を使って撮った本作を見逃すわけにはいかないというわけなのです。
で、本作ですが、これがまた難解な作品でした。北野武演ずる老年の男とその孫に近い女性の不思議な関係。まるですべてが夢のなかで、起こっているような非日常な感覚。都会からやや離れたリゾートホテルで偶然目にした、怪しげなカップル。そんなふたりに幻惑され、魅了されていく、デビュー作はヒットしたものの、二作目以降はスランプに陥った作家崩れで、今が旬のイケメン俳優西島秀俊演ずる清水。
幻覚なのか現実なのか境が不明瞭で怪しげな世界に身を投じながら、身も心もおぼれていく主人公をカメラが追いかける本作。これが不思議なことに、まるで自身の体験として、子供のころのうつろげで奇妙な記憶をまさぐられるような不思議な感覚に浸り、とまどいを覚えながら、時間が漂い、気づけば映画はエンドマークを迎えます。おそらく本作は誰もがもつ心のくすぐったい部分にそっと触れ、刺激を与える要素を持っているのではないでしょうか?
わたしのような人生経験豊富?な中年おっさんが観ても、不思議な感覚にとらわれるのだから、おそらく本作を鑑賞した方はみなキツネにつままれた奇妙な感覚で映画館をあとにするのだろうな~と思いながら・・、でも映画ってこういうのもありだよね・・なんて久々の浮遊感覚に内心にんまりしがら、映画館を後にした中年おっさんの映画ファンが春の宵のなか、帰宅の途に着いたのでした。
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setsuko-tohi (水曜日, 18 5月 2016 16:11)
ご無沙汰しています。久しぶりに、先生のブログを開いてみて…開院3周年本当におめでとうございます。私の誕生日と開院日が同じなので、感慨深い思いです。いっそうのご活躍を心からお祈りします。さて、この映画私も見ましたが何のことやら分からず印象から遠ざかっていました。先日、1年前見る機会を逸していた河瀬直美監督の「あん」をDVDで見ました。じわっと感動しました。年のせいか、解りやすいのが一番です。今後も先生の映画コメント楽しみにしております