雪の轍

9月のとある木曜日クリニックの休診日に、本作をサロンシネマ1にて上映最終日になんとか鑑賞できました。3時間16分と長い作品のせいか、さすがのサロンシネマにおいても上映期間はたったの2週間でなんとか滑り込みセーフでの鑑賞になりました。

 

なんといっても昨年2014年のカンヌ国際映画祭の最高作品賞であるパルムドール受賞作です。観ないわけにはいきません。アメリカのアカデミー作品賞より、カンヌのパルムドールのほうがわたしにとっては価値が高く貴重であり、大きな期待を持っての鑑賞となりました。

 

さてさて作品ですが、これがまた文学的でほぼ全編会話で成り立っているような物語でした。監督自身が打ち明けているように、チェーホフの物語世界をトルコの至宝カッパドキアにて、裕福で恵まれた家族と貧乏でアル中の男とその息子家族というまったく対照的な背景をもつ家族を中心に、恵まれた家族の内部にくすぶる夫婦の葛藤、兄妹の確執がまるでドストエフスキの小説の会話のごとく、カッパドキアの大自然のなかにひそやかに佇むホテルのなかにて、物語は進行していきます。

 

いったいなにが幸せであり、なにが人生の達成なのだろうか?という人類にとっての永遠の哲学的課題がトルコの片田舎の厳しい自然を背景に滲んでくるがごとくに観る者のこころに陰影を伴って、時間を費やし沈殿していきます。

 

本作はとにかく対照と陰影の映画です。家族の対照的な陰影もですが、風景や部屋のなかの蝋燭のともしびのなかでの議論の場でも映像的に陰影が協調され、これが会話の内容を哲学的な内容に引きたてます。陰影の強い、映画的魔法の空間がしっかり湧き出ていました。

 

そしてなにより素晴らしいのは、カッパドキアという世界的にもまれで不思議な風景を背にした映像的な美しさです。冬になるとほとんど雪にとざされる地方に、こころまでシンクロしていく人々の生活。そこでのささやかな善意とそれを受け入れまいとする狂気にも近い信念。友人たちとのかたらいのなかで、大切なことに気づいていく主人公。

まるで本作は「カラマーゾフの兄弟」のようにさまざまなテーマがあり、複合的魅力にあふれ、観るたびに気づきがあるような作品になっていました。

ロシア文学や哲学的思考が好きな方にはもってこいの作品。文学を愛し映画も好きな方にはぜひおすすめの作品です。

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コメント: 1
  • #1

    tomiyasu motoharu (金曜日, 26 2月 2016)

    カッパドキアですか?どこかできいたことがありましたが、なんだったかおもいだせず、うーん。トルコにいってみたくなりました。東欧というか、アジアというか、不思議な国ですね。いつかいつかですが、ロシア文学にチャレンジしたいですね。罪と罰は、つんどくです。ずるして手塚治虫の罪と罰をまんがでよみましたが、原作ですよねぇ。