開幕してはや一か月。ついにこの日がやってきました。決勝戦はドイツvsアルゼンチン。ここまでいろいろありましたが、ついに決勝の日がやってきました。現時点でのヨーロッパの最強国と南米の最強国の闘い。ここにブラジルがいるはずという世界中のファンの予想に反しましたが、現時点での実力相応なカードになりました。
戦前の興味としては、とにかく勝つサッカーに徹するためには相手の良い点を消し去っても構わないというサッカーをするPK戦キラーのアルゼンチン。かたや長年の強化が結実した上、幸運にもスペイン人・グラウディオラ(前FCバルセロナ監督で現在のバイエルンミュンヘンの監督です)に仕込まれたバイエルンの選手を中心とし、力強い躯体のチームに流麗なパスサッカー(もちろんパスだけ見ればスペインのそれにはまだ及んでいませんが)の要素も加味された史上最強のドイツ。
アルゼンチンがドイツの長所を殺して勝つ寝技サッカーを見せるか?それともドイツが寝技に持ち込ませずに、その力でアルゼンチンをねじ伏せるか?これが大きな見どころの決勝戦となりました。
決勝はアルゼンチンの思惑のとおり、延長にもつれ込みました(もしPK戦になってアルゼンチンが勝つようなことが起これば、準決勝に引き続いての勝利となってしまい決勝戦でのPK戦が廃止になった可能性がありましたね。それはそれでよいような気もしますが)が、ついに延長後半にゲッツェによるミラクルゴール。アルゼンチンは攻撃するしかない状態となりましたが、もともと自発的な攻め手はメッシぐらいしかなく、それもしっかり封じられており、そのまま1-0でドイツの優勝となりました。
一見、順当な結果ではありましたが、いろいろと考えさせられる点もありました。
まずはアルゼンチンの善戦です。準決勝までをみる限り、PK戦や試合終盤のうっちゃりのような形で勝ち上がってくるアルゼンチンを観る限り、ブラジル戦のような7-1のスコアはないにしても、3-1ぐらいの差はついて決着をみるのではないかと思われる対戦でしたが、ふたを開ければかなりきわどい勝負となりました。これはひとえにアルゼンチン選手個々の対人スキルの高さにあると思われます。相手がいくら戦術的に勝り、個々にうまくても、とにかくマークした相手を離さない。コーナーキックでも、ブラジル戦ではあれだけマークをうまく外していたミュラーが、マークを外せない。そりゃあそうです。アルゼンチンのマーカーはミュラーのシャツをしっかり掴み絶対離さないのですから。ミュラーは自分へのマークが強いので、パッサーとして機能しようとしていましたが、そこにもしっかりマークはいる。ミュラーといえども、一対一できちんとマークを仕切ってしまうアルゼンチン選手の狡猾さとそれを支える技術を感じました。日本代表にはたぶんこうしたアルゼンチンのしたたかなプレーはできないと思います。ドイツはドイツでそういう粘り強いアルゼンチンに逆襲をくらい、ひやひやするシーンも何度も浴びせられ、この大会で炸裂したペナルティエリアでのパスサッカーも不発に終わりましたが、延長後半ついに出た決勝点は伝統のゲルマン魂を感じさせる、フォーメーションや戦術を超えた、点と点を結ぶゴールでした。堅実で面白味のないサッカーのようにときに言われるドイツですが、やはり最後にはこういうアクロバティックな難しいプレーをものにすることもできるのです。(日本も普段はなるべく確実なプレーに徹し、ここという場面でこういう困難なアクロバティックなプレーで試合を決することができればと思います。今大会の日本は通常モードで成功困難なアクロバティックなサッカーを目指していたような気がしてしまいましたから)
今大会を振り返れば、ブラジルやアルゼンチンといった南米の古豪は、代表レベルではとにかく守備を固めて、攻撃は個人(メッシやネイマールのことです)の創造性に任せるといったチーム作りをしてきました。そうしたややアバウトなチームづくりがドイツの守備はもちろん攻撃においても、バスケットボール張りのフォーメーションサッカーに地元南米でコテンパンに打ち破られたというわけで、南米には過酷な答えが出ました。それでも個人の技量や創造性に頼るサッカーとフォーメーションを組み立てながら強い身体能力を利用するサッカーは、今後もせめぎあいが続くのではないでしょうか?
体たらくの印象ばかりの南米勢ですが、全体としてはそれほど悪くありませんでした。チリの全員襲撃サッカーやハメス・ロドリゲスを中心としたコロンビアサッカーはファンタジックでワクワクさせるもので、今大会の素晴らしさに花を添えました。
ちなみに個人的にMVPを選ぶなら、決勝進出チーム限定ならドイツのミュラーでしたが、限定なしなら文句なくハメス・ロドリゲスではないでしょうか?彼は日本戦のゴールもそうでしたが、ウルグアイ戦のスーパーボレーシュートなどは今大会のベストゴールのひとつですし、ゴールでなくともなんだかワクワクするようなプレーが多く、サッカーの未来を予感させるプレーを随所にしていました。
そして今大会のドイツの優勝の要因をずばりいうなら、培ってきたフォーメーションに加えて、伝統的の個の強さと、スペイン譲りの確実にボールを回すサッカー(スペインほど裏をかくものでなく、論理的で明快なパス回しが印象的でした)が結実したことがあげられると思います。これらの要素の融合によって、ドイツのアドバンテージが生まれ、敵地アメリカ大陸での初のヨーロッパ優勝という偉業を達成させました。
一方で、ブラジルはもう50年ほど前に王様ペレを擁し、スウェーデン大会において、ヨーロッパの地で南米が勝つという唯一のジンクス破りを先に達成しており、この偉業もあり、この間つねに代表レベルでのブラジルはヨーロッパ、南米の垣根を超えたサッカー王国として特別な存在として尊敬され、君臨してきたのですが、今大会のアメリカ大陸でのドイツの優勝によって、ヨーロッパと南米は綱ひきの綱を再度中央に戻したような感慨をもちました。
あとやはりこれは書いておかなければならないことがあります。それは日本のメディアとサッカー解説者のいい加減さです。彼らの日本代表についての楽観的予測はわれわれファンと変わらないレベルで単に期待を入れた予測や解説に終始しました。ブラジルの持ち上げ方にしても、グループリーグの闘い方を冷静に見れば素人にでもブラジルの脆弱性は感じられていたのに、準決勝の歴史的大惨敗までは、まるでブラジル最強伝説を鼓舞すれば間違いないという分析に欠けた楽天的な報道ばかりでした。ブラジル大敗の後も、テレビの画面ではまったく信じられないことが起こったという論調でとまどう解説者の顔がいたるところで見られました。しかしこれは、素人サッカーファンからみてもあきれた醜態だったと思います。サッカー解説者というのは、サッカーを深く見つめ探究し解説する人間ではなく、単なる心情的ファンの代表に過ぎないことを露呈しました。メディアにしても、ブラジル最強!ネイマール最高!という論調に終始し、ブラジル大惨敗の日まで国民をミスリードしました。これは昨今の政治や社会問題に関するレベルでも、メディアによる世論のミスリードがみられ、それらと共通する匂いを感じたのはわたしだけでしょうか?今までもそうでしたが、メディアというのはつねに胡散臭い存在で、浅い思考と思惑で間違った空気を醸成しやすく、これからも彼らが発する情報を簡単に信ずることは危険であり、自分の目や思考できちんと真実を見極めていかなければならないという想いを新たにしました。
いろいろ書いてきましたが、ワールドサッカー戦国絵巻としては、それでもまだ最多優勝の栄冠はブラジルにあり、ドイツはまだひとつ足りません。これが達成されたら、名実ともにドイツはサッカー王国の称号を戴冠することになるのでしょうが、ブラジルの逆襲もこれからあるでしょうし、今後も世界のサッカーからは目が離せません。わが日本もアジアの王者にとどまらず、世界に羽ばたいてほしいものです。まずは世界の強国をめざし、われわれも一過性の熱狂にとどまらず、Jリーグはもちろん高校サッカーや少年サッカー、女子サッカーにも興味をもち、しっかり日本のサッカーを支えていきたいものです。
さて、これでわたしの今大会のワールドカップ観戦シリーズは終わりです。ながらくご笑読くださった方にはこの場を借りて感謝いたします。ありがとうございました。いつの日かまたお会いする奇遇に恵まれましたなら、楽しいサッカー談義をしましょう。その日までひとまずワールドカップの話題とはお別れです。それではまた4年後に・・・。