日本にとって勝負の一戦をクリニックの開院時間の直前まで待合いのテレビにて観戦しました。
結果は0-0。開始早々から日本は70%に迫る圧倒的なボール支配率でゲームを支配し、前半終了間際に相手キャプテンのイエローカード累積2枚によるレッドカードの退場があり数的優位が出来上がったにも関わらず試合終了までこの結果・・。
香川に代わって大久保の先発起用。これは前半を観る限り、正解の印象を持ちました。わたしは個人的には大久保という選手は、セレッソ大阪時代~ヴィッセル神戸時代と続けて、自分がエースでありながら不振に陥りついにはJ2(二部です)落ちさせたチームを一度ならず二度までも見捨ててとっとと新天地に移籍するという所業の御仁。わたしなどからすれば、「うーん、なんと薄情で国際的なクールさ」と感じ、わがサンフレッチェJ2落ちの際に残留し奮闘した結果、再びチームをJ1へ戻し、なんとJ1優勝(それも連覇!!)にまで導いたエース佐藤を支持する広島人としては、個人的に(あくまでも個人的にです)あまり好感を持てない選手だったのですが、この前半ではその大久保の性格そのままの日本人離れしたやや強引でワイルドなプレイや感情豊かなアピールプレイが相手守備陣の反則の判定を効果的に引き出し、まずまずの成果を収めていました。
そして運命の後半、香川の投入(香川は前の試合でのふがいなさを自覚しており、人生を賭けるほどの神妙な表情とおそらく悲壮な覚悟でピッチに入ってきた気迫はテレビを通しても十分伝わってきました)で活性化するのではと思われ、ゴール前バイタルエリアでの稲妻ドリブルを期待しましたが、またもや不発。やはり香川はもうドルトムント時代の自在に中央を切りさく選手ではありませんでした。結局、我々は彼のもっとも良いときをイメージし、それが今でもあるという幻想に陥っていたということがはっきりしました。(それでもパッサーとして内田への守備陣裏への宙を浮かせたスルーパスは見事でしたが、それも大久保の雑でワイルドな精度に欠けるシュートで水の泡に・・)
本田にもそれは当てはまり、やはり一番いい時の本田ではなく、この試合もボールをキープできず、切りこめず、スルーパスも出せずで不完全燃焼。
ザックはザックで疑問の残る采配でした。試合終盤に普段していない、岡崎のワントップや吉田をあげるパワープレイなどいろんなフォーメーションを付け焼刃的に導入するも結果にはつながらず、交代枠も使い切ることはなく(香川がだめなのですから、その補完としてドルブルのうまい齋藤投入は面白かったとは思いました)、結局痛恨の引き分けとなりました。こんな采配でも結果が出れば、さすがザックの機転と讃えられるのでしょうが、結果がこれなら「ぶれまくりのザック」という批判につながるのは世の常です。あえていえば、この4年間ほとんど招集していなかった我の強い大久保を入れたこと自体、微妙な選択(それでも日本国内の世論やメディアによる「大久保を代表に入れろ」という声は大きく、代表に入れなければ、また別の批判の声があったと考えられ、結局はワールドカップの試合結果で代表監督のこうした決断は評価されるのです)であったわけで、結果同じく我の強い「日本代表の王様」本田の存在感は薄れ、まさに両雄並び立たずで、代表チームの核はぼけてしまいました。また大久保の起用によって、この4年間着々と代表において起用し手塩をかけて育ててきた、攻撃におけるイマジネーションやクリエイティブな面を担い、ロンドン五輪準決勝進出という成果を生みだした、清武や柿谷の出場機会を奪ったことも残念でした。その結果、イマジネーションあふれるサッカーは影に隠れ、強引でワイルドなガチガチのどこにでもある前線重視のゴリゴリサッカーに陥りました。このギリシャのような硬く守ってくる相手にこそ、相手の裏をかく創造的プレイが必要だったのに、この起用法はつくづく残念でした。こういう点でも、もし4年間のクリエイティブな攻撃サッカーを貫こうとするなら、ザックはワールドカップ直前からぶれまくり、戦略面においてもこの4年間の目標を忘れ、ギャンブル続きだったといえます。そしてこのギャンブルはいまのところ負けに終わりそうな確率が高いのです。もちろん誰が出ても日本はまだ真剣勝負においてはまだまだ未熟で、4年間目指してきた、流れのなかで点を獲るサッカーは達成できなかったかもしれませんでしたが、この4年間の流れからすると釈然としないものをどうしても感じてしまうのはわたしだけでしょうか?
加えて、ここが今後に向けて一番の改善点ではないかと思うのですが、わたしがこの試合を観て痛切に感じたのは、流れのなかで点をとるサッカーは理想だけれど、それが通用しないときのオプションを今回の日本代表は作っていなかったということです。
例えば、この試合はかなりギリシャを攻めたてましたから、コーナーキックやフリーキックもずいぶんとりました。しかし、いい感じでフリーキックをとっても、日本のキッカーはどうも決めれる気配がありません。かつて中村俊輔のような天才プレイスキッカー(彼のフリーキックやコーナーキックは常にゴールの予感に溢れていましたよね)を代表で応援したものにとっては、今日もまったく不満の残る出来でした。本田などは、前回大会はブレ玉フリーキックで一世を風靡したのに、蹴り方を忘れてしまったのでしょうか?(どうやらこれは今大会の使用球と関係があり、今大会の使用球は前回大会の使用球に比べて球筋が安定する傾向にあるらしくボールはゆれにくいようです)それなら本田はもう魅力的なプレイスキッカーではなくなり、別の選択肢を考えねばなりません。次の選択肢は遠藤となりますが、いかんせん球速が遅い。(スピードを含めたキック力を上げるというのはどんなサッカーを目指すにしても、これからの日本の重大な課題ではないでしょうか?その点では大久保は及第でした)この試合後半最後であり、最高のチャンスでもあったペナルティエリア目の前のフリーキックにしても、狙ったコースはいいのですが、いかんせん球速が遅いので結局ゴールポストぎりぎりのいいところに飛んでもしっかりキーパーに弾かれてしまいます。しかし、このふたり以外に今回の代表には選択肢がないのです。
日本は今後、プレイスキッカーを確信的に育成していくことも考えたほうがよいのではないでしょうか?もちろんそんな素晴らしいキッカーを人工的に育成することは難しいという意見もあるでしょうが、それでも今後、日本が世界で勝っていくには必要な方策だと思います。いつも目指す理想のサッカーが世界の強国に通用するとは限らず、そんなときの引き出しは複数もっていたら、勝ち抜ける確率は上がると思うのです。(もちろん一方で、自分たちが目指したサッカーが世界で通用しないのなら、潔く負けを認め、敗退しようという考え方もあり、それはわたしにもあるのですが、複数のオプションを持つのも大事だと思うのです)
はっきり言って、今朝の悪夢は2002年日本で開催されたワールドカップの決勝トーナメント一回戦の再現という面もありました。その日仙台の地において、グループリーグをトップで勝ち上がり、当然ベスト8、あわよくばベスト4を目指した日本代表は、グループリーグで敗戦も喫し、ぎりぎりでなんとか勝ち上がってきたトルコに先制され、その後、貝のように守りに入られたトルコに対して、決定的な攻め手がなく、ボールは保持するものの、ゴールをこじ開けられずに0-1で敗れ去った日本代表の試合です。試合を観ながら、当時世界で3本の指に入ったであろうフリーキッカー中村俊輔がベンチにいない(ワールドカップ直前にイケメン好きのトルシエ監督によってメンバーから落選していました。まあこれは冗談ですけど)ことを嘆いたことは記憶に新しく、今朝の試合は、この悲劇を思い出させるゲームでもありました。
もちろんフリーキックやコーナーキックというのはサッカーでいえば、飛び道具であり、そんなものに頼らず、流れのなかで点をとればいいのだという正論もあるでしょう。(わたしにしても、それが実現可能なら言うべきことはなく大賛成なのですが、残念ながら現実は甘くないのでこんな愚言をするのです)実際に今回の代表も流れのなかで点を獲るサッカーを目指して、4年間研鑽してきました。しかし、世界はまだまだ遠く、ワールドカップ本番では、本人の調子云々の議論(基本的にはワールドカップ本番にきちんとコンディションを合わせるのも実力の一部分なので、調子が悪いから仕方がないという意見は通用しないと思います。ペレやマラドーナがそうだったように、ワールドカップ本番で出した力がよくも悪くも実力なのです。そういう意味ではジーコは個人的に大好きで素晴らしい選手でしたが、マラドーナやペレにはかないません)もあるでしょうが、期待の「香川の突破力」も「本田のキープ力」もまったく歯がたたないわけなので、わたしなどは、やはり日本はプレイスキックをおろそかにしてはいけない・・・と思うのです。
蛇足ながらあえて言うと、香川の場合はワールドカップ前のシーズンの過ごし方にも悔いがなかったのかな?と思ったりしました。今シーズンはマンチェスターUにおいては試合に出るどころか、ベンチにも入れてもらえない状態が続きました。ワールドカップ直前3試合で、マンチェスターの愚将解任に伴い、やっとピッチに戻りましたが、試合勘も体力もかつての彼ではなく、そのままワールドカップを迎えたように見えました。ドイツのクラブ入団が決まり、成田空港を出発する際、あえてブラジルのシャツを着ていたのは、前回大会直前に選考もれした口惜しさを4年後のブラジル大会でぶつけることを決意表明しているとみました。もしその4年間の集大成が今大会であったなら、今シーズンのマンチェスターU残留は、すでに同チームでの出番が少なくなっていた状態だったわけですから、誤った選択でした。あれだけ香川らしい動きで成功した古巣のドルトムントが出戻りウェルカムだったのですから、勇気をもって戻るというのもありでした。もちろんこれには金銭を始め、いろいろな要因が絡むことはわかります。たかがワールドカップに自分のサッカー人生まで費やすことはないという意見はありだと思います。実際にかつて中田英寿は、ワールドカップは所詮サッカー人生の一部であり、国のために戦うよりは自分のために戦い、クラブで出世することがまず大事なんだというサッカー人生を送りました。結果彼は所属クラブでの契約条件にこだわり続け、チームを流浪し、試合に出る機会も少なくなり、その過程でかつてのプレイにおける長所(スルーパスのセンスなど中田はかつて素晴らしかったです)を失ってしまいましたが、彼のような徹底的な個人主義的価値観もありだと思います。人はそれぞれさまざまな主義主張をもつ存在ですから。しかし、香川は中田とは違い、世界のサッカーを相手に、ワールドカップの舞台で堂々それを自らの力で蹴散らすことを夢見るサッカー小僧という言動をしていたので、サッカー小僧らしくワールドカップで活躍するためのシンプルな選択をして、ドルトムント時代(バイエルン・ミュンヘンが君臨するドイツのブンデス・リーガにおいて、それまで中堅クラブであったドルトムントは、香川入団をきっかけに、リーグ2連覇の偉業を果たすというとんでもない歴史的躍進をはたし、香川自身、シーズン終盤のケガさえなかったら、ブンデスリーグ日本人初のMVPもありえたほどの活躍したのです)の溌剌な動きを取り戻してワールドカップで活躍してほしかったです。ドルトムントに戻って活躍しても、ワールドカップではだめだったのかもしれませんが、諦めのつき方がずいぶん違いますよね(笑)。
ちなみに本田のミラン移籍については、わたしは仕方なかったと思います。チェスカ・モスクワは本田を長年蹂躙しすぎました。もっと早く彼は彼に見合うクラブへ移籍できたはずなのに、その機会を失いつつありましたから。あれなら当然ワールドカップ直前といえど、移籍するのは当然です。あえていうならワールドカップ半年前の段階でバセドウ病の手術にあえて踏み切る選択は正しかったということですが、これは神のみぞ知る領域でしょう。
最後に、サッカーとは敵よりも多くの得点をとらなくては勝てないゲームであり、本来、形にとらわれすぎず総合的に考えるべきで、具体的には、スペインのような美しく流れのなかで点を獲るサッカーもいいのですが、日本はさまざまな理由(体格や思考の癖の問題などあげればきりがありません)で、残念ながらそれだけでは世界に伍することはできず、目指すべきはヨーロッパの美しいシステムと、フリーキックだろうが、個人のフェイクだろうが、どのような形でも点を獲ってしまう南米のクレバーなサッカーのハイブリッドではないか?と思うのです。それが東洋の国、いいとこどりのうまい、加工修正し、さらに良いものを作ることがうまいという国柄をもった日本のめざすべきサッカーではないかと思います。そういう意味において今回はイタリア人監督ザックの影響もあり、ヨーロッパの美しいパスサッカーにこだわりすぎたのかもしれません。監督が変わるたびにサッカーが大きく変わってしまうという点で日本はまだまだサッカーにおける歴史の積み上げが足りないという意見もありますが、これだって諸外国も同じようなものです。こうした試行錯誤を通して独自の日本のスタイル(小柄な身体でもスピード豊かに、汗をいとわずに精力的に縦横無尽にピッチを走り回り、身体のぶつかり合いよりも相手の裏を、短かい機関銃のようなドリブルやスルーパスを使って鮮やかにとり、ゴールを決めるスタイル、まさにゼロ戦サッカーなのかな~とは現時点では思いますが、あくまでも私見です)を彫り出していけばいいのです。そういう意味ではまだまだ遙かな道のりです。これからに期待したいです。まだ歴史の途上なのですから。
でも今回感慨深かったことは、試合が通勤時間帯にあるにもかかわらず、日本中がこの試合を気にかけ、いたるところで声援を送っていたことです。マイナー時代からのサッカーファン(1980年代、メキシコ大会出場に王手をかけた雨の日韓戦でさえ当時テレビ中継はかろうじてあったものの、国民レベルの注目はからきしなかったものです)からすれば、ほんと素晴らしい時代が到来したわけで喜ばしい限りです。
さて熱くいろいろ書きました(ここまで読んでくださって、ありがとうございます。本ブログ最長の文章ではないでしょうか?おそらくワールドカップの熱狂がそうさせるのでしょうね)が、サッカーに興味のない方から見れば、たかが「球蹴りのかご入れ」になんでここまで熱狂するの?と感じられると思います。そうです、そうのとおりなのです。一方ではそんな単純なスポーツが、数あるスポーツのなかで、この惑星において最も支持され、地球のいたるところで竜巻のように熱狂を巻き起こしているのが、サッカーワールドカップなのです。(小学生のわたしにサッカーの魅力を教えてくださった、今は亡き日比野先生にもこの場を借りてお礼を言わせてください。先生のおかげで、ひとりの中年サッカー馬鹿は今日も元気にこんな駄文を書いております)この一連のワールドカップ観戦ブログを読んで少しでもサッカーに興味を持ってもらえたら、わたしにとってこんなうれしいことはありません。たった90分のスポーツにここまで語る(正直この文章ひとつ書く間に一試合観戦できそうです)というのは単なるサッカー馬鹿のたわ言といえるかもしれませんが、ワールドカップ期間中、よろしかったらおつきあいください。
そして、日本はまだ決勝トーナメント進出の可能性は残しており、強敵コロンビアに日本の目指した4年間の集大成のサッカーを見せてほしいです。奇跡のグループリーグ突破のあかつきには、わたしが期待外れだったと断じた香川や本田がその輝きを取り戻しているはずでしょうし、このブログでもぜひ彼らを称賛させてください。頑張れ!日本!