オーバー・ザ・ブルースカイ

夏に閉館が決まったサロンシネマ2にて、診療の終わった土曜日の夕暮れどきに観てきました。音楽映画に駄作なし・・・と誰が言ったかは知りませんが、わたしにとってはたしかに真実です。この作品はカントリー・ブルーグラス(名作「俺たちに明日はない」もブルーグラスの映画でしたね)の生演奏を背景に、価値観の大きく異なる男女がふとめぐり合い、愛し合い、結婚し、こどもを産み、こどもと死に別れ、その後、ふたりの関係が価値観の相違をむき出しにしながら壊れていき、やがて永遠の別れへと繋がっていく物語です。

こんなせつない物語が、明るくやさしいブルーグラスの生演奏(唄と演奏はなんと俳優たち自身によるものだそうです)とともに、詩的な映像とともに流れていく官能的な作品でした。カントリー・ブルーグラスの映画なのに、ベルギー産というのもなかなかシニカルでいいです。ブルーグラスの本場でいまや廃れたアメリカン魂への憧憬をもつ男と、そんなものには興味はなかったが、そんな男と一目で恋に落ちたタトゥー女。音楽の魔法はこんな相反する男女でさえ、強く結びつけていく。日常では常に異なり、すれ違う思考を持ちながら、夫婦で奏でるブルーグラスの音楽においてはせつないまでに融合する。なんてセクシーな映画だろうと感嘆しながら、エンドマークまで観終わりました。アメリカンながら、実はヨーロッパのメンタリティを持った作品でした。

P.S.この日(5月31日19時~)の上映は幕前に、本物の広島のブルーグラスバンドの生演奏があり、ラッキーでした。こんな素敵な演出をしてくれる広島の映画館の至宝サロンシネマ。夏にはついに閉館ですが、新しい形で火の鳥のように再生してくれるのを期待しています。